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フェリーに乗って
フェリー。それはメコンデルタ地域では珍しくないのかもしれませんが、ワタシにとっては珍しくてしょうがない乗り物のひとつです。人々の生活に密着しているフェリー。バスやトラックやバイクや人、さらには救急車までをもひっきりなしに運ぶフェリー。排気ガスまみれになりながらも、ちょっとしたクルーズ気分を味わえるフェリー。その様子はなぜか見飽きることなく、昼も夜も眺めたり、ときには実際に乗ってみたりしていました。
ワタシが滞在していたミトーからベンチェーという町に移動するには、フェリーに乗るのが一番手っ取り早い方法でした。ホテルのすぐ右隣にあるフェリー乗り場から無料で乗船でき、約20分ほどでベンチェー側の岸に到着。そこからミニバスで30分ほど行けば、町の中心地へと到着です。
ワタシはベンチェーへ二度通いました。一日目は簡単に町中を歩き回り、ついでにホテルもチェック。ほとんどのホテルがとんでもなくしなびすぎていたため、滞在は諦め通勤方式にすることに。なので翌日また改めてやってきて、しつこく町を散策しました。
ベンチェーは希望通りのなんにもないところでした。ごく普通ののどかな町を歩きたいと思っていたワタシにとってピッタリの町で、やたらめったら話しかけてくるウザったいバイタクドライバーもおらず、観光客らしき人の姿もほとんど見かけません。ほったらかしにしてもらえるありがたい町だったのです。
この町に住む人々の反応もステキでした。ワタシを発見すると、興味を持つのか大概見つめられます。その目には明らかに好奇心と微笑みが混じっているので、こちらも自然と笑顔になります。中東の人なら間違いなくココで突進してくるわけですが、彼らは距離感を保って遠慮深く眺めたままです。そしてときどき手をこまねいてくれる人もいたりして。一人旅をしているときのこの手の出会いは、本当にありがたいなと思います。
例えば、船の内部を見せてくれた荷下ろし中のおじさんたち。例えば、持ち帰り用のビニール袋入りアイスコーヒーを作ってくれた船の喫茶店のおばちゃん。他にも、「アレと同じやつを作って!」と頼む旅人の要望に応えてくれたDVDを上映する喫茶店のお姉さん。快く写真を撮らせてくれた市場のおばちゃん。うまいうまいと言いながら食っていたワタシの世話を焼いてくれたフォー屋のご夫婦。道ばたで熱唱して笑いを取っていたバイタクのドライバー。ビックリするくらい丁重に対応してくれた銀行の若者。などなど。とにかくからむ人みんなが笑顔で、丁寧で、一生懸命でした。
ベンチェー橋を渡った地域にある民家や農園がある場所を歩いて回るのも、また興味深いものがありました。間違っても車なんて通れない幅の道が普通にあり、ステキな家がわんさかあったのです。なので、「ああ、将来はあんなかわいらしい庭があるお家に住んでみたい!」などと思いながら、家ウォッチングにいそしんだりしたり、アイスコーヒーを片手に農園の中を歩き回ったりしました。
そして帰りは降りたときの反対側にあるバス停から再びバスに乗り、フェリーに乗って戻りました。フェリーと町の両方を堪能できてほんとに幸せでした。
大きなフェリーだけでなく、小さなフェリーにも乗船しました。メコン川に浮かぶ小さな島、トイソン島に渡るためのフェリーです。この小型フェリーは有料で、人間とバイクだけを運びます。
ある時、ベランダから川を眺めていると、ホテルの左隣から出発した小さな船が対岸の島へと向かっていくことに気がつきました。何度も観察しているうちにあれはフェリーに違いないと思い、ホテルマンに確認するとやはりその通りだというので、喜び勇んで乗船しに向かいました。
トイソン島は果樹園の島なので、どこまで歩いても土の道と果物の木しかないわけですが、なんともやさしい気持ちになれるのどかな場所でした。とくに塀のようなものがあるわけでもないので、どこが誰の果樹園かもわかりません。所々に番犬がいるポイントがあったので、もしかしたらそこからが私有地だったのかもしれませんが、その場合必ずといっていいほど吠えられまくるので、怖くてたまりませんでした。どうにもこうにもその脇を通過しなければいけないときは、絶対に目を合わせず、歌を歌いながら通過してました。とにかく、ベトナムで犬といい出会いがあったためしはありません。
ホテルに戻ったら戻ったで、またフェリーを眺めます。しつこいようですが、そのくらい気に入っていました。きっといつもベランダで川を見ているおかしな日本人と思われていたに違いありません。でも、ベランダからの眺めは人の目を気にしていられないくらい素晴らしいものでした。
ベランダに椅子を出し、ときにはビールを片手に、ときにはマンゴーを食べながら眺めました。川が近いせいか少々湿っぽい風が吹いていて、ときどき壁に貼り付いたトカゲのゲッコウが鳴いたり移動したりしていました。
あれはバイクと人しか乗せないフェリーだなとか、あらあら救急車が乗ってるなとか。多いときには3台もの大型フェリーが川を移動していることもあったので、そんなときはまるで古いワーゲンを発見したときのような、少し得したような気持ちになったりして。フェリーは昼も夜も運行されているので、そんな具合にいつだってワタシを楽しませてくれたのです。
そんな愛して止まなかったフェリーですが、なんとも悲しいウワサを耳にしました。半年後には無くなってしまうというのです。
その話をしてくれたのは、ベンチェーで出会った青年、トゥンくんでした。美しい緑の庭に惹かれて入ったオープンカフェで出会い、30分ほど話し込んだのです。
ワタシはずっと、フェリー乗り場の向こう側に見えていた工事中の橋が気になっていました。大きな川を渡るための大きな橋。あれはいつできるのだろう、そしてできあがったらフェリーはどうなるのだろうかと心配していたのです。
果たしてその不安は最悪の方向で的中することになってしまいました。「橋ができれば当然フェリーの役目も終わるから無くなる」と、トゥンくんは言いました。ショックでした。
ワタシはホテルに戻ると、すっかり顔なじみになったホテルマンに確認しました。するとやはり同じような答えが返ってきたので落胆してしまいました。ホテルマンはワタシが残念がっている理由がわからず不思議顔です。
これほど人々の生活に密着したフェリーが無くなってしまうなんてことが本当にあるのでしょうか。本数が減るだけじゃダメなんでしょうか。橋ができれば確実に便利になりますから、そりゃフェリーはいらなくなるかもしれません。時代の流れには逆らえないなんてことは、大人ですからわかっています。でも、わかっていても、残念すぎるんです。
とにかくワタシはガッカリしてしまいまして、それからというものフェリーを見る目が変わってしまいました。目に焼き付けておきたい、そんな気分になってしまったのです。
ミトー滞在5日目の朝、ランドンホテルを出発するとき、ホテルマンがワタシに「また来年会いましょう!」と言ってくれました。おそらくよっぽどこの町が気に入ったと思われたのでしょう。でも違うのです。ワタシが気に入っていたのは、フェリーとベンチェーという町であって、ミトーには思い入れなどあんまりないわけで。(ゴメンよ。)しかもフェリーが無くなるのだったら、なおのことこの場所を再訪する可能性は低くなるわけで…。
いつの日かこの場所に戻ってきて懐かしもうと思っても、もうフェリーはないんだな。そんな風に思うと、ただただ寂しく、どんな形でもいいから残して欲しいと思わずにはいられませんでした。
photography 1
photography 2
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